日本橋神経クリニック

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Moses

モーゼス(てんかんの心理社会的治療)とは

MOSES and faMOSES MOSES(モーゼス)とfaMOSES(ファモーゼス)

MOSES、faMOSESともにてんかんの心理社会的プログラムで、MOSESは成人向け(16歳以上)、faMOSESは小児期の患者さん(7~13歳)とそのご家族のためのプログラムで、小児とご家族は別々のプログラムに参加します。
てんかんの心理社会的治療は、てんかんのある人がてんかんと向き合い、てんかんを乗り越え、てんかんがありながら主体的・積極的に日常生活や社会生活を送ることをサポートするための治療で、知識面とともに、心理面にも働きかけるところに特徴があります。

About MOSES MOSES

MOSESとは、Modulares Schulungsprogramm Epilepsieというドイツ語の略で、逐次訳すと次のようになります。
Modulares(モジュール:単位) Schulungsprogramm(学習プログラム) Epilepsie(てんかん)

MOSESは、1998年にスイスてんかんセンターのリード博士、ドイツの社会学者ヒベルン先生たちにより作成され、2005年改訂されました。主にドイツ語圏で使用されており、ドイツでは医療保険の対象になっています。2010年にリトアニア語に次いで3番目の言語として、日本語訳が出版されました。
その後、2013年3月に静岡てんかん・神経医療センターのスタッフがドイツでトレーナー講習を受け日本で実施するとともに、普及にも力を入れています。トレーナーになるためには3年以上のてんかんの臨床経験を有することと、トレーナー講習を受ける必要があります。

MOSESの目的は下記の通りで、9つの章から成り立っています。

  • 病気について知識を得る
  • 積極的に治療に参加する
  • 病気などの対処法を学ぶ
  • 心理社会的な問題、就労の側面を理解する
  • 自立した、できるだけ制限の少ない生活を送る
  • 自分の病気のエキスパートになる

MOSESは、16歳以上のてんかんのある人が対象で、参加する人のてんかんのタイプはどのような対応でも構いませんが、心因性非てんかん発作のみの方は対象になりません。講義を聴くといった形で一方向性に知識を伝授するのではなく、トレーナー(1~2人)と小グループ(7~10人、最大12人)の話し合いの形で進められ、他の患者さんやトレーナーと経験や意見を交換します。
分からないことは、いつでも質問したり話し合うことができます。内容は医学情報だけでなく、日常生活、職業、社会(福祉)制度など、てんかん患者が必要としている情報が包括的に網羅されているプログラムです。

以下、トレーナー教本より各省のテーマと目標を挙げます。

第1章 てんかんとともに生きる

この章のテーマは、「てんかんの克服:課題とチャンス」です。少し難しい表現ですが、てんかんを克服するために必要なことを考えるという行為は、自分自身を見つめ直す機会を与えてくれるということです。もしてんかんがなかったら、それほど深く自分を見つめることはなかっただろう。てんかんはそのきっかけを与えてくれるもので、自分を見つめ直すチャンスであると参加者に気づいてもらえたら、この章の目的は達成されます。

具体的には、病気にともなう感情(悲しみや孤独、怒りなど)を意識化し、整理し、受け止め、他の人に表現することなどを通して自分自身をよく知ることが、未来を切り開く力となる。病気はその機会を与えてくれるという側面をもっていることに気づくよう進行します。

以下の目標が挙げられています
  • てんかんが引き起こす感情を受け止め、表現すること
  • 心の状態や発作とのつきあい方についてよく考えること
  • 感情を、心の均衡を回復し安定化するのにかけがえのないものとしてとらえること
  • てんかんの克服を、困難な局面を体験しなければならないプロセスととらえること
  • てんかんのよりよい克服法を探っていくこと

第2章 疫学

テーマ てんかんはどれほど多いのか?
目標
てんかんは決してまれな病気ではないことを学ぶ
  • てんかんはどのような頻度で生じるのか
  • てんかんは誰にでも生じうる
  • てんかんのある人は他の人と同じように多くのことができる

第3章 基礎知識

テーマ てんかんについてよくある質問
目標
てんかん関してよくある質問に対する答えと解説を提示する
  • てんかん発作にどのような原因があるか
  • てんかん発作がどのように生じるか
  • どのような発作型があるか

第4章 診断

テーマ てんかんを診断し、発作型を明らかにするために最も重要な検査
目標
診断のための方法(発作の記録法や検査法)を理解することで、病気とのつきあい方を知り、積極的な治療への参加を促す
  • 発作の記述
  • 脳波
  • その他の検査
  • 専門病院で行われる検査
  • 自分自身の記録係になる

第5章 治療

テーマ てんかんの治療
目標
積極的な治療への参加方法を学ぶ
  • さまざまな治療方法を知る
  • 薬物治療の一般原則と、個々人に合わせた調整の仕方を理解する
  • 最近の抗てんかん薬について概略を学ぶ
  • 他の人に自分の受けている治療について説明できるようになる
  • 治療に積極的に関わることを学ぶ

第6章 自己コントロール

テーマ 発作に対する特別な対処法
目標
自分の力で発作をコントロールできることを学ぶ
  • 発作の誘因を回避する
  • 前触れ(前兆)を知る
  • 発作抑制の方法を知る
  • 自己コントロールの前提を考慮する

第7章 予後

テーマ 長期経過におけるてんかん
目標
てんかんにはさまざまな経過があることを学ぶ
  • 発作がない状態とは、どのような状態か?
  • 発作がなくなるチャンスはどの程度か?
  • 薬物を中止した後も発作がないままで経過するチャンスはどの程度か?(治療予後)
  • 発作の抑制が得られない場合に、どのような可能性があるか?

第8章 心理社会的側面

テーマ 心理社会的側面-心理社会的自己援助
目標
てんかんが生活感、日常生活、職業に及ぼす影響を学ぶ
  • 自己価値観や社会的接触を改善するにはどうすればよいか
  • 自立やスポーツのために、また職業生活において、どのような援助があるか
  • 障害者のための法的な保護規定や均等化にどのようなものがあるか
  • 運転免許をとるのにどのような規定があるか
  • 他の人に、自分のてんかんをどのように説明したらよいか

第9章 てんかんのネットワーク

テーマ 個人的なてんかんのネットワーク
目標
てんかんに関する援助や情報を得るための情報源を知り、個人的ネットワークの形成を促す
  • 個人的ネットワークを作る
  • てんかんに関する情報源
    • 治療
    • リハビリテーション
    • 就労
    • 生活
    • なかま

MOSES effects MOSESの効果

2002年にMayらがまとめています。対象はドイツ、オーストリア、スイスの22施設でMOSESを受けた16歳から80歳、242人のてんかんのある人でした。MOSES実施グループはMOSESを受ける直前と受けた半年後に評価し、MOSES非実施グループ(対照)はMOSESを受ける6か月前と直前に評価し、それぞれのグループの前後2回の結果を比較しました。

その結果、MOSESを受けると、てんかんに関する知識が増え、生活の様々な面での対処能力が上がるとともに、発作と副作用が減るという結果になりました。発作と副作用が減ったのは、自分の症状を正確に伝えることができるようになった結果、適切な処方変更がなされたためと推察しています。

静岡てんかん・神経医療センターの調査でも、同様の結果が出ています。
外来に通院中の患者さんに、ぜひともMOSESを受けていただき、発作なくあるいは発作を最小限にとどめ、有意義な生活を送るための術を身に着けていただきたいと思います。また、ご家族のためにfaMOSESの家族用のプログラムも、早い時期に開始したいと思います。