MOSESとは、Modulares Schulungsprogramm Epilepsieというドイツ語の略で、逐次訳すと次のようになります。
Modulares(モジュール:単位) Schulungsprogramm(学習プログラム) Epilepsie(てんかん)
MOSESは、1998年にスイスてんかんセンターのリード博士、ドイツの社会学者ヒベルン先生たちにより作成され、2005年改訂されました。主にドイツ語圏で使用されており、ドイツでは医療保険の対象になっています。2010年にリトアニア語に次いで3番目の言語として、日本語訳が出版されました。
その後、2013年3月に静岡てんかん・神経医療センターのスタッフがドイツでトレーナー講習を受け日本で実施するとともに、普及にも力を入れています。トレーナーになるためには3年以上のてんかんの臨床経験を有することと、トレーナー講習を受ける必要があります。
MOSESの目的は下記の通りで、9つの章から成り立っています。
- 病気について知識を得る
- 積極的に治療に参加する
- 病気などの対処法を学ぶ
- 心理社会的な問題、就労の側面を理解する
- 自立した、できるだけ制限の少ない生活を送る
- 自分の病気のエキスパートになる
MOSESは、16歳以上のてんかんのある人が対象で、参加する人のてんかんのタイプはどのような対応でも構いませんが、心因性非てんかん発作のみの方は対象になりません。講義を聴くといった形で一方向性に知識を伝授するのではなく、トレーナー(1~2人)と小グループ(7~10人、最大12人)の話し合いの形で進められ、他の患者さんやトレーナーと経験や意見を交換します。
分からないことは、いつでも質問したり話し合うことができます。内容は医学情報だけでなく、日常生活、職業、社会(福祉)制度など、てんかん患者が必要としている情報が包括的に網羅されているプログラムです。
以下、トレーナー教本より各省のテーマと目標を挙げます。
第1章 てんかんとともに生きる
この章のテーマは、「てんかんの克服:課題とチャンス」です。少し難しい表現ですが、てんかんを克服するために必要なことを考えるという行為は、自分自身を見つめ直す機会を与えてくれるということです。もしてんかんがなかったら、それほど深く自分を見つめることはなかっただろう。てんかんはそのきっかけを与えてくれるもので、自分を見つめ直すチャンスであると参加者に気づいてもらえたら、この章の目的は達成されます。
具体的には、病気にともなう感情(悲しみや孤独、怒りなど)を意識化し、整理し、受け止め、他の人に表現することなどを通して自分自身をよく知ることが、未来を切り開く力となる。病気はその機会を与えてくれるという側面をもっていることに気づくよう進行します。
以下の目標が挙げられています
- てんかんが引き起こす感情を受け止め、表現すること
- 心の状態や発作とのつきあい方についてよく考えること
- 感情を、心の均衡を回復し安定化するのにかけがえのないものとしてとらえること
- てんかんの克服を、困難な局面を体験しなければならないプロセスととらえること
- てんかんのよりよい克服法を探っていくこと