Epilepsy
Epilepsy
“てんかんはこどもの病気“といわれてきました。確かに幼小児期にてんかんを発病する方は多いのですが、実は高齢になって初めててんかんを発病する方も少なくありません。図1はてんかんの発病率を示しています。発病率とは、年齢ごとの1年間にてんかんを発病する人の数で、10万人あたり何人かを示しています。0歳児は確かに発病率が高く、10万人に対して150人前後です。その後徐々に低下し、20歳から60歳くらいまでは40人前後で推移するのですが、60歳を過ぎると再び上昇しはじめ、80歳以上では150人以上で0歳時より高いと言われています。
図1からは、てんかんは幼少児と高齢者で発病率の高い病気であることと、あらゆる年齢で発病することの2つがわかります。
ある時点で治療をしている人の人数を有病率と言います。先進国ではおおよそ1000人に5~9人(0.5-0.9%)とされています。ちなみにパーキンソン病の有病率は1000人に1~3人で、脳卒中の有病率が1000人に5~6人です。てんかんのある人は脳卒中に罹患している人と同じくらいおり、脳神経の病気のなかでは頻度の高い病気の一つです。
てんかんが身近な病気であることが分かっていただけると思います。
「心当たりがない。どうしててんかんになったのだろう?」。てんかんと診断された時、多くの人の心をよぎる言葉ではないでしょうか。図2を見てください。実は、てんかんを発病した人の、2/3の人の原因を特定することが困難です。分かっている範囲では、脳血管障害が原因でてんかんを発病する人が最も多く、出産前後の障害や外傷の順になっています。2/3を占める特発性、潜因性とはどういうことでしょう。糖尿病や脂質異常症などを発病しやすい家系があることは広く知られています。
「うちは糖尿病の家系だから心配だ」など日常的に交わされています。てんかんも同じで発病しやすい家系があります。このように体質が発病に関わっていることが推定される場合、特発性と呼んでいます。最近改訂された国際分類では、素因性と表現されるようになりました。素因性てんかんは、発病年齢や発作型、経過など一定の症状を示すいくつかの症候群から成り立っています。素因性てんかんは、脳の形態には異常がなく、純粋に脳の働きに異常があるてんかんです。
ところが、そのような症候群には属さないけれど、MRIやPETなど最新の検査機器を用いても、血液検査をしても原因が特定できない人も少なくありません。このような場合、潜因性と分類していました。文字通り、原因が潜んでいる、つまりてんかん発作を起こす原因があると思われるものの、それがはっきりしない場合に使っていましたが、結局現代の技術で原因を特定できないだけで、どこかに原因があることは確かなため、最近の分類では原因不明とされました。素因性てんかんはてんかん全体の一部で、てんかんは決して遺伝する病気ではありません。
てんかんは脳の神経が発作の間、過剰に活動してしまう病気です。脳の神経は興奮性と抑制性の2種類しかありません。興奮性とは、手をつないだ先の神経を興奮させる作用をもつ神経のことをいい、抑制性とは手をつないだ先の神経の興奮を抑える作用をもつ神経のことをいいます。
普段、この二種類の神経のバランスは保たれているのですが、てんかん発作を起こす部位(ネットワーク)では、興奮性の神経の活動が優勢になったり、抑制性の神経の活動が不十分であるなどの理由で、全体として興奮性が勝っています。車でたとえるなら、アクセルを踏み込みすぎるか、ブレーキが利かない状態と言えるでしょう。そのときに起こる過剰な活動が、てんかん発作です。てんかんは大脳の神経の病気です。
てんかん発作は、この過剰な活動の始まり方から焦点性発作と全般発作に分けられます。焦点性発作は、脳の一部から過剰な活動が始まるタイプで、全般発作は脳の左右広い領域が発作の始まりと同時に過剰な活動に巻き込まれるタイプの発作です。焦点性発作は、その後の過剰な活動の広がり方で、次々と症状が変化します。
図6を見てください。てんかんの治療を開始して20年経過した時点での、発作の状況を示しています。50%近い人は、5年以上発作がなく服薬もしていませんでした。治ったと考えてよい人です。20%くらいの人は、薬さえ飲んでいれば5年以上発作が抑制されていました。かつての概念では寛解(症状が治まった状態)にあたります。
数%の人は、5年以上発作が抑制されたものの、思い出したようにポツンと発作が起こってしまった人で、一部ですがこのようなことがあります。てんかんの油断できない側面を現しています。
約70%の人は長期的に発作が抑制され、ふつうの生活を送っていました。てんかんは治る病気です。あきらめずに治療を検討しましょう。