Epilepsy
Epilepsy
てんかんの治療には、薬物療法、外科療法、食事療法、免疫療法、心理社会的治療法などがあります。ここでは、心理社会的治療以外の治療について解説します。 図1にこれらの治療の進め方の概略を示しました。
薬はてんかんの分類に従って選択されます。てんかん発作には焦点性発作と全般発作があります。一人の患者さんがこの2つの発作型を併せ持つことはまれで、通常はどちらか一つの発作が出現します。焦点性発作からなるてんかんを焦点性てんかん、全般発作からなるてんかんを全般てんかんに分類し、この分類に従って薬が選択されます。そのため、どのような発作なのか見極める、つまり発作診断は治療薬選択のためにとても重要です。
てんかん診療では、病歴や発作症状の聴取に細心の注意をはらい、時間をかける理由がここにあります。ボタンの掛け違いは、回り道につながります。
日本の抗てんかん薬は従来、海外の発売に数年遅れで利用が可能でしたが、1989年から2006年の17年の間に発売されたのはクロバザム(商品痙マイスタン)1剤のみでした。2006年以降発売された薬を、新規抗てんかん薬と呼びます。以後約10年間に11種類の新規抗てんかん薬が発売されました(表1参照)この中でオクノベルは新薬として承認されたものの、未だ発売されておらず発売が待たれています。
詳しい抗てんかん薬の使い方は、各種ガイドライン等に譲りますが、新規抗てんかん薬の特徴を一言で言うと、効果は従来薬とほぼ同等だが、副作用は少ない点が挙げられます。副作用のない薬はありませんが、抗てんかん薬で一般的に認められる眠気やふらつき、めまいなどの副作用は、実際に使用していて少ないし、軽いと感じています。”発作一瞬、副作用365日“。ある患者さんのおっしゃった一言は、今でも耳の奥に残っています。毎日飲む薬だからこそ、副作用には十分注意する必要があります。
旧来薬しか使えなかった時代、発作で長年苦しんできた患者さんが、苦労の末ようやく発作は止まったもののふらつきの副作用が残った場合には、効果と副作用という究極の選択を迫られた末、副作用を我慢するしかありませんでした。その時代と比較して、現代は薬の選択肢が増えとても恵まれた状況にあると思います。一つ二つ試みて治らなかったといってあきらめず、あらゆる可能性を試みる辛抱強さもてんかん診療には必要です。
代表的なものはラミクタールで、強い気分安定効果があります。てんかんのある人でうつや不安障害を合併している人は30%近くいると言われています。これらの人にはてんかん発作の抑制とともにうつ症状の改善が期待できます。トピナは片頭痛の改善が期待で、フィコンパは不眠症の方に良眠をもたらします。高齢な方には、イーケプラ、ラミクタール、ガバペンなどが推奨されます。これらの薬は他の薬との相互作用が少ないまたはないため、高血圧や脂質異常症、循環器疾患などを服用する機会の多い高齢者の方に推奨されるのです。
ドラベ症候群に対するディアコミット、ウェスト症候群などに代表されるスパズムという発作に対するサブリル、レノックス・ガストー症候群に対するイノベロンなどです。これらの薬をつかうときには、診断がしっかりしている必要があります。
かつては、何種類もの抗てんかん薬を試して、どうしても発作が止まらない方が手術の主な対象でしたが、現在では考え方が大きく変わり、2〜3種類の抗てんかん薬を使って発作が治まらない時には、手術ができないか検討することになっています。
手術できるか否かは、慎重に検討する必要があります。まず、発作がどこから起こるのか調べます。そのためには、発作症状や発作時の脳波所見、CTやMRI、PET、SPECTなどの画像検査、神経心理検査(脳の細かな機能を調べる)などの検査を総動員します。さらに精密に発作の起こる部位を決めるために、脳の表面に格子状または一直線に並んだ電極を留置したり、細い電極を脳内に刺入して発作時の脳波を記録することもあります。これらを頭蓋内脳波といいます。
発作焦点を把握するのと同時に、後遺症を残さない、あるいは最小限にするための検査も行います。言葉や記憶が左右の脳のどちらが優勢に働いているかを調べます。頭蓋内電極を留置している場合には、電極を通して微弱な電流で刺激して、言語、運動、感覚などが実際にどこにあるのか確認します。このようにして、術式を検討したり、重要な部位を術野から外すことで後遺症が内容にあるいは最小限にとどめます。一定の後遺症が見込まれる場合には、担当医からあらかじめ説明があり手術を行うか否かの選択の参考にします。
根治術とは手術により発作を完全に止めることを目的にした手術です。発作の起こる部位(これを発作焦点と言います)を切りる焦点切除術と、広い範囲から発作が始まり、焦点を切除するのが困難な場合に、発作が始まる側の大脳の半分を残したまま、反対側や脊髄との連絡を絶つことにより発作止める大脳半球離断術があります。
図2挿入で赤く囲ってある場所のように、てんかん原性焦点が限局した場所にある場合には焦点切除術が検討されます。
緩和術とは、発作を止めることが目的ではなく、生活に大きな支障をもたらしている発作だけを止めたり、発作の数を減らすなどして生活の質(QOL: Quality of Life)の向上を目指す手術で、脳梁離断術(のうりょうりだんじゅつ)と迷走神経刺激術(めいそうしんけいしげきじゅつ)があります。詳細は順次ご紹介する予定です。
1980年代に盛んにおこなわれていましたが、いつの間にか行われなくなってしまった治療法で、この10年見直されています。ケトン食と修正アトキンスダイエット食があり、前者は主に乳幼児が対象で、後者は成人が対象になります。詳細は改めて書く予定ですが、一言で言うと、カロリーの多くを脂肪から摂るようにした食事です。体内で脂肪を燃やすとケトン体という物質が産生されます。このケトン体を目安に、常にケトン体が尿から排泄されている状態を保ちます。発作型は問いません。
効果に関して、発作頻度が半分以下になった人の割合は50~95%、90%以下に減少した人の割合は24~60%と報告によりさまざまですが、薬物療法に行き詰まり、外科の適応もないと判断された人では、検討に値する治療法です。
導入に際して脂肪の代謝が正常であることの確認や、ご家族へのレシピの指導などがあるので、入院して導入するのが原則で、自己流は危険を伴うので厳禁です。栄養士さんの協力は絶対ですので、近くで実施している施設を探す必要があります。図3にケトン指数の計算の仕方(通常3~4)を示しました。図4には実際のメニューを参考までにお示ししました。新しいレシピがどんどん開発されています。
大脳の神経に対して、自己抗体と言って自分で自分を攻撃してしまう機序が、てんかん発病やその後の発作継続に関与している一群の病気が発見されつつあります。このような方には、副腎皮質ステロイドホルモンや免疫抑制剤の注射が有効なことがあります。抗体が陽性であれば診断は明らかになりますが、必ずしもそうではなく診断過程は複雑です。
病気のことを詳しく知ることで、積極的に治療に参加したり、日常生活の様々な局面で適切に判断する力を身に着けることで、病気をコントロールするとともに、日常生活の制約をできる限り少なくするための治療で、慢性疾患では重要な治療であることは多くの人が認めているのですが、実施されにくい治療です。保険診療で認められていないのも一つの理由かも知れません。
てんかんの心理社会的治療プログラムには、成人向けのMOSES(モーゼス)と小児期の患者さんとそのご家族のためのfaMOSES(ファモーゼス)があります。faMOSESではご本人とご家族は別々のプログラムに参加します。当院では外来でこのプログラムに取り組む予定です。