Convulsions of children
Convulsions of children
【好発年齢】生後6カ月~60か月(6か月以前、4~5歳以降はまれ)
2015年に日本小児神経学会監修によるガイドラインが発行されました。本項目はこのガイドラインを軸に解説します。
熱性けいれんの有病率は、欧米では3~5%といわれていますが、わが国では7~11%という報告が多く、日本で多くみられる病態です。
一般に熱性けいれんというと、発熱にともない生じるけいれん発作と受け取られがちですが、症状はけいれんだけではありません。急に無反応になり全身がぐったりして唇が紫になる、手足が時々ピクピクする、眼球がどちらかに固定するなどの症状のこともあります。けいれんも全身が硬直する(突っ張る)、ガクンガクンと揺れる、突っ張った後ガクンガクンとなるなど細かく見ると症状は様々です。
慣習的に熱性けいれん(febrile convulsion)と呼んでいますが、症状はけいれん発作だけでなく、非けいれん性の発作も含まれており、正確には熱性発作(febrile seizure)となります。けいれん性であれなかれ、いずれの発作も数分で終わり、終わった後意識が元に戻る(不機嫌に泣くことはありますが)ことが、熱性せん妄や(髄膜)脳炎・脳症との見分けに、発作時にほとんどの場合意識障害をともなう点が悪寒・戦慄との見分けに重要です。
熱性けいれんの定義はガイドラインによると、「主に6か月から60か月(5歳)までの乳幼児期に起こる、通常は38℃以上お発熱に伴う発作性疾患(けいれん性、非けいれん性を含む)で、髄膜炎などの中枢神経感染症、先天性代謝異常、そのほかの明らかな発作の原因が見られないもので、てんかんの既往のあるものは除外される」とあります。実際には70%程度の発作が3歳未満で出現し、5歳以降は稀です。
熱性けいれんといっても、頭の中で起こっていることはてんかんと同じで、大脳ニューロンが過剰に活動する状態です。脳の二次的な障害を予防するため、あまり長く続く場合には薬で止める必要があります。具体的にはけいれん自体が5分以上続いたり、意識が完全に元に戻る前に発作を繰り返すような場合には救急搬送を依頼してください。発作後睡眠といって発作後に寝てしまうことがありますが、発作後意識が回復しない場合には髄膜脳炎など中枢神経感染症の疑いがあるので救急受診したほうがよいでしょう。
一般的に発作が止まり意識も回復している場合には、特別な処置は必要ありませんが、かつて1回の発熱で発作を繰り返したことがあるなど、ご両親の再発の不安が非常に強い場合や地域の医療事情が十分でないような場合には、ジアゼパム坐剤の使用を考慮します。発作が止まった後でジアゼパム坐剤を使用した場合、同じ発熱の期間内で熱性けいれんを繰り返した児は2.1%だったのに対し、使用しなかった時の再発率は14.8%だったという報告があります。血液検査、髄液検査、CT・MRIなどの画像検査、脳波検査などは必要とタイミングに応じて行います。
熱性けいれんは以下の条件の1つ以上を満たすものを複雑型熱性けいれんといい、それ以外を単純型熱性けいれんといいます。
①は全身のけいれんではなく、半身あるいは体の一部のけいれんを意味します。③は一度の発熱のエピソードでけいれんを繰り返した場合を指します。
熱性けいれんの60~70%が単純型といわれています。単純型の場合には何回繰り返しても認知機能を含めた神経学的後遺症を残すことはなく、てんかんを発病する確率も高くないので過剰に心配することはありません。
複雑型は、のちに述べるてんかん発病関連因子の一つと考えられています。
以下のような場合には、発熱時(けいれんを予防するための投与ですから38℃より低い発熱、わが国では37.5℃の発熱を目安として使用するのが一般的です)に、ジアゼパム坐剤を使用することが推奨されています。
ジアゼパム坐剤の具体的使用法は体重当たり、1回0.3~0.5㎎/㎏(最大10㎎)を挿肛し、発熱が続く場合には8時間後に同僚を追加します。こうすることで24時間は有効血中濃度が保てます。
解熱剤を使用することで再発熱の機会を作る結果、人為的に熱性けいれんを再発させる可能性が危惧されましたが、杞憂に終わったようです。解熱剤は、熱性けいれんのことは気にせず、全身状態の必要度に応じて使えばよいということです。ただし解熱剤の使用で熱性けいれんの再発を予防することもできないようです。
一般的には必要なく、ジアゼパム坐剤の適応があり、使用したにもかかわらず再発を防げなかった場合に考慮します。
熱性けいれんの既往のある子どものてんかんの発病率は、2.0~7.5%とされ、一般人口の0.5~1.0%と比較して高い傾向にあります。以下に揚げる因子がてんかん発病に関連すると考えられていますが、残念なことにそれらの因子があったとしても、あらかじめ抗てんかん薬を服用するなどして発病を予防できません。
当日体調が悪くなければ実施可能です。熱性けいれんとの間隔は、長くても2~3ヶ月とされています。
【好発年齢】ロタウィルス胃腸炎の74%が0~3歳の間に起こるのに対し、ノロウィルス胃腸炎には特定の好発年齢はない
乳幼児期に急性胃腸炎(主にウィルス性胃腸炎)にともない起こる全身けいれんをこのように呼びます。1~2日(主に24時間以内)の間に数回から10回程度繰り返す傾向があるため、とても心配になりますが、この期間を過ぎてしまえば繰り返すこともなく、後遺症を残すこともないので診断さえつけば過剰な心配は不要です。
おもな症状は下記のとおりです。
*全身が硬直する発作(強直発作)、硬直した後手足がガクガクと動く間代が続く発作(強直間代発作)がよく認められます。
胃腸炎の原因の半数はロタウィルスといわれていますが、ロタウィルスワクチンが導入されて以降、ノロウィルスによるけいれんの比率が増加する可能性があります。
注意すべき点として、発熱をともなう場合には熱性けいれんとの鑑別が必要となることや、けいれんとけいれんの間に意識障害が存在する場合には脳炎・脳症の可能性が挙げられます。また、下痢・嘔吐にともなう脱水が高度になるとそれ自体けいれんの原因になり得ることにも留意しましょう。
下痢が非常に軽症の場合や、下痢を発症する前にけいれんを起こした場合にはてんかんとの見分けが難しくなります。詳細な症状と経過の観察が決め手になることがあります。
自然に治まるので診断さえつけば特別な治療は必要ありませんが、繰り返しを予防するためには、カルバマゼピン少量投与が有効です。ご両親の不安が非常に強い時や他の疾患との鑑別を要するときには短期間の入院を検討することもあります。通常けいれんのとん挫あるいは予防のために用いるジアゼパムの座薬や注射の予防効果はありません。
ウィルス性胃腸炎は冬季(2~5月ころ)に流行するため、胃腸炎にともなうけいれんもこの時期に好発します。
熱性けいれん、胃腸炎関連けいれん以外にも、てんかんとは病態が異なる状況関連性発作(誘発発作・急性症候性発作)としてけいれんが起きることがあります。
低血糖は、特にけいれんを起こしやすく、新生児けいれんの主要な原因の一つです。血糖値が60mg/dl以下になると冷や汗、顔面蒼白、脱力、ふるえなどなどの症状が出現します。さらに血糖値が50から40mg/dlに下がると集中力が低下し眠ったような状態となり、30mg/dlになるとけいれんがおこります。血糖値を測定し、低血糖であれば、ブドウ糖の注射をします。
低血糖は食事摂取量とも関連して出現しますが、乳幼児の場合は、先天性代謝異常症が原因であることもありますので、先天代謝異常スクリーニング検査を行う必要があります。低血糖の原因が分かれば、原因にあわせた治療を行うことにより、けいれんを繰り返すこととそのことによる合併症を予防することが大切です。
乳幼児が大泣きしたときに、息を吐いた状態のまま呼吸が止まり、顔色が悪くなり意識がなくなり、全身がぐったりしたり、けいれんをおこすことをいいます。生後6か月から3歳ぐらいまでのお子さんの4-5%と比較的多くにみられます。
憤怒けいれんは、乳幼児期に起きる「反射けいれん」の一つで、多くは激しく泣くことで息つぎが出来なくなり、無呼吸となり、意識がなくなります。“青色失神”と呼ばれることがあります。
もう一つのタイプは、頭をぶつけるなどしたときの「痛み」や「びっくり(驚愕)」により起こるタイプで、あまり泣くことなく脳血流が減少して意識がなくなります。“白色失神”と呼ばれるタイプです。これは、血管迷走神経反射によるとされています。
いずれも1分以内で回復することが多く、4-5歳までには自然に消失し、発達にも影響なく良好な経過をとります。むしろ泣かせまいと神経質になったり、過保護にならないように気を付けることが大切です。
てんかん発作とは異なり、発作の前には必ず、「大泣き」や「びっくり」などの誘因があり、呼吸停止があること、睡眠中には認められないことが診断のポイントとなります。診断のためには、脳波検査、頭部画像検査、心電図、心エコー等が必要になります。
外傷の直後から24時間以内に起きるけいれんをさします。受傷の5分以内の5.7%、10分以内の7.9%の人にけいれんが起きます。1~5歳で最も起こりやすく、ほとんどが全身けいれんです。外傷直後けいれんは、遅発けいれん(外傷後てんかん)とは異なる病態(脳の局所的な代謝変化や血液分解産物の大脳皮質への直接刺激等により,てんかん 閾値が低下することに起因し)で起きると考えられておりのちのてんかんの発病と結びつく可能性は低いとされています。
副作用でけいれんを認める薬剤がいくつかありますが、子どもではテオフィリン製剤に注意する必要があります。テオフィリンは、気管支喘息の治療薬として用いられます。テオフィリンの治療域は狭く最適な血漿中濃度は、10~20㎎/Lとされています。副作用は、悪心、嘔吐、頭痛、興奮などを特に高濃度の際に認めますが、これらに並んでけいれんがあります。けいれんは、血漿中濃度の上昇により出現することが多いのですが、通常の投与量でもウイルス感染症、食事、併用薬剤等により影響を受けることがあります。テオフィリン製剤を使用している場合、特に静脈点滴をしている場合には血中濃度のモニタリングが大切です。
脳血流の低下により生じる一過性の意識消失発作です。前駆症状として、立ちくらみ、吐き気、眼前暗黒感、動悸、しびれ、悪寒などがあります。
入眠期に睡眠の時にみられる体幹あるいは四肢の短い筋肉の攣縮(れんしゅく)を言います。攣縮の持続は通常0.1秒以内ですから、しばしば“ピクつき”と表現されます。また、REM睡眠あるいは睡眠の浅いときに顔面や手に細かいミオクローヌス(ぴくつき)がみられることもあります。いずれも健常児に高頻度で認められます。脳波異常も認めません。生理的現象ですから、治療の必要もなく心配することもありません。
体の一部(顔面、首、上肢に多い)に、急で短い動きが出現します。短いといってもミオクローヌスより若干長く、同じ動作を繰り返します。症状は運動性チックと音声性チックに分けられます。運動性チックには肩をすくめる、瞬きをする、首を傾ける、顔をしかめる、口をすぼめるといった単純な症状とける、ジャンプする、自分をたたくなど複雑な運動症状があります。音声性チックには咳ばらいをする、鼻を鳴らす、鼻をすする、「あっ」、「うん」など繰り返し口にするなど単純な音声性のチックと、同じ言葉を繰り返す(反復言語)、ほかの人が言ったことを繰り返す(反響言語)、その場にふさわしくない汚いことをいう(汚言)などといった複雑な音声性のチックがあります。生活に支障をきたさないチックは、治療の対象にはなりません。社会生活や、学習場面などに支障が生じた場合に、治療の対象となります。出現率は、小児の10~20%と言われ、男児に多いという報告もあります。チックはおおむね思春期までには消失しますが、5%ほどは成人までもちこします。
PKDは、座った状態から立ち上がる、急に走り始めるなど突然の動作によって、不随運動(自分で意図しない動き)が起こることが特徴です。症状としてはジストニア(手足や体感が捻じれるような姿勢になる)、バリスムス、舞踏病などを認めます。発作中に意識消失することはなく、数秒から1分以内の持続時間です。頻度は、一日に10回以上のこともあれば、月に1回と少ない場合もあります。発多くは小学校高学年から思春期に発病します。少量の抗てんかん薬が有効なことが多く、経過は良好で、年齢とともに改善していきます。脳波異常は認められません。最大の責任遺伝子は、染色体16p11.2に位置するPRRT2が知られています。
似た症状を呈するものに、発作性労作誘発性ジストニア、発作性非運動誘発性ジストニアなどがある。この症状自体はてんかんではないが、てんかんを合併することもある。その際には症状を慎重に見分ける必要がある。
夜驚症は睡眠時随伴症の覚醒障害に分類されます。夜間の睡眠中に突然大声で泣いたり、汗をかきながら呼吸が早くなったりするような症状がある場合は、夜驚症を疑います。入眠後2時間ぐらいのステージ3から4の睡眠で起きます。4歳から12歳に認められることが多く、持続は1-10分ぐらいです。この間のことは、一部の記憶のみが残っていたり、すべてを忘れてしまいます。一晩に数回出現したり、月に一回程度の低頻度の場合もあります。積極的な治療をしなくても大部分が思春期までに消失します。睡眠中の発作性に起きるエピソードで、夜間睡眠中に好発する前頭葉てんかんとの鑑別が必要になります。症状から鑑別が困難な場合には脳波検査を行います。